ナスビ君の超絶平穏日記 第3話 空き巣
これは謎の生命体ナスビ君が、その異様な見た目から如何に人間社会に溶け込んでるかを描いた物語である。
ナスビ君の超絶平穏日記 第3話
「空き巣」
目黒区のとある一角、真新しい3階建ての住宅が一棟。
土地の少ない東京の立地を生かし、広いとは言えない空間に木が生い茂る。1階部分はガラス張りになっており、2階部分は木材で造られていることが伺える。素晴らしいコントラストに仕上がっているが、3階部分が段ボールで造られており、そこだけは理解不能である。
ヘー○ルハウスだろうか、大変オシャレな外観だ。
ここにはそれなりに裕福な家族が住んでいるのだろう。いや、もしかしたら一人暮らしかもしれない。なんか東京だし、そういうのありそう。
すると突然1階のガラスが割れる音が。
「ヒッヒッヒッ…金目の物がありそうだぁぜぇ…ッ!」
そう言って住宅内に侵入したのは、全身黒タイツで顔をレスラーのマスクで隠しているTHE HUSHINSYAである。Has come.
空き巣だろうか、ガラスが割れる時に結構な音がしたんで近隣住民にバレてそうだ。
しかし、近隣住民は見てみぬフリをする。
なんということだ、これが東京なのか?
熊本を見習え。行ったことないけど。
しかし、近隣住民が関わらない点においては理由があった。それは家主が関係しているらしい。
「おっ!早速金目の物み~っけ!」
空き巣はそう言ってキッチンにあったアルミホイルを掲げた。こいつの目は腐っているのだろうか。
「睨んだ通り、ここは宝の宝庫だぁぜぇ!」
空き巣がそう言った瞬間、住宅内にサイレンが鳴り響いた。
「な、なんだ…!?」
空き巣は周りをキョロキョロ見回した。
そして冷蔵庫を見つけ、中に入っていたチーズを食べ始めた。
「ようこそ我がスウィートホームへ!」
聞き覚えのある声…そう、ナスビ君である。
スピーカーから音声が発せられており、ナスビ君の姿は見えない。
「な、なにぃ!?バレてぇるぅ!?」
空き巣はチーズフォンデュを開始している。
「お前はもうこの家から出られない。出たければ3階にある鍵を取得し、暗号を解いて出口を見つけるんだよねー!」
まさかの空き巣に対する脱出ゲームが始まってしまった。
状況的にホーム○ローンみたいである。そうでもねぇか。
「まずは目の前にある箱を開けて、1~3番の袋を順番に開けるんだよねぇ」
目の前を見ると、幅20cm程度の小振りな箱が。
空き巣は食べていたチーズバーガーをテーブルに置き、おそるおそる箱を開けた。
その瞬間、1階が消し飛ぶ程の爆発が起きた。
黒焦げになった室内で、スピーカーから音声が発せられる。
「おいおい、僕はなにも"目の前の箱を開けろ"とは言ってないぞ?」
いやどう考えても完全に言っていた。
間違いなく言っていた。
「なるほど…これは難関だね」
なんということでしょう。空き巣は傷一つ付かずにクワトロフォルマッジを食している。
「これでそこいらの瓦礫を積み重ねて、上の階に上がればいいんだな?」
そう言うと空き巣は瓦礫を集め始めた。ポジティブ。
ぶっちゃけさっきの爆発で壁に風穴空いたから普通に外へ出れるのだが、空き巣は上へ進む。
次の階に到着し周りを見渡す空き巣。
なんということでしょう。そこには果てしない大地が広がっており、木が、山が、動物が、川が…大自然が目の前に立ちはだかった。もはや物理法則とかそういう類いのアレをなんかアレしている。ブレ○オブザワ○ルドみたいだなぁ。
「おいおい、こんな広いところでどうしろってんだ?」
空き巣がなにを血迷ったか土をむしゃむしゃ食べ始めた瞬間、近くの湖が光りだした。
「ハハハハハ!勇者よ!600円でフレンチが食べられたら素敵だと思わないか!私は千葉県出身だがね!」
突然訳の分からないことを言いながらおっさんが現れた。光っていた湖の逆側にあった沼地からである。
「うるせぇ!いいから早く謎を出してくれ!」
「まぁ待つんだ空き巣よ…いいか?」
「よくねぇオラァアアアアア!!」
空き巣はおっさんを沼に沈めてしまった。
「あらあらダメじゃない…そんなことをしては」
今度は美しき衣を纏った女神様が登場した。しかし湖からではなく沼地からだ。
空き巣はその女神を沼から引っこ抜き、近くの木に刺した。女神は満足気である。
困り果てた空き巣だったが、たまたま山手線の駅を見つけて事なきを得た。
3階に着いた空き巣は、驚きの光景を目の当たりにする。
そこは今の科学じゃ実現できなさそうな、なんか白いビジュアルの、ほらなんか映画とかでよくある空間に出た。
「おやおや…まさかこんなところまで来ちゃうなんてねぇ…!」
フューチャー感ぱないこの空間に似つかわしくない沼地が部屋の隅にあったのだが、ナスビ君は天井から現れた。
「お前の目的はなんなんだ!!答えろ怪物!!」
叫ぶ空き巣。むしろお前の目的はなんなんだよ。
「くふふふふ…君も気付いてるかもしれないが…くふふふふ…エイズの撲滅だ…ッ!!」
ナスビ君は得意気に言った。どこで気付けばよかったんだ。
「おのれ!百利あって一害なし!!」
じゃあいいじゃん。やらせてやれよ。
「おやおや、僕に勝てるとでも?」
「勝つか負けるかじゃない…お前が殺すか!俺が死ぬかのどっちかなんだよ!!」
叫ぶ空き巣。どのみち死ぬぞソレ。
「よぉし、じゃあ公平にマリオカートで勝負しよう」
提案するナスビ君。
「どのマリカだ?GCのやつとDSはやり込んだから自信あるが…Wiiか64でもいいけど、とりあえずSFCとGBAは無しな。3DS以降はやってないから分からん」
事細かに質問を投げ掛ける空き巣。
「うるせぇだよねぇ!そこまで言うならシムシティで勝負じゃ!!」
その時、地響きと共に建物が崩れ去った。
一階をボロボロにしてしまったので、建物が重みに耐えられなかったのだろう。
瓦礫となった夢のマイホームから出たナスビ君。
その時見た夕日は、その日の夜に忘れてしまった。
帰路につき、自宅に戻ってきたナスビ君。
いや、お前の家さっき崩壊した建物じゃなかったんかーい。さっき崩壊したの誰の家だったんだ。
ベッドに潜り込み、布団を引きちぎる。
今日も素晴らしい1日であった。
続く